間に合った遺言書

2019年11月23日(土・祝)

 私が任意後見受任者となっていた80代の女性が7月にお亡くなりになりました。脳性麻痺で手足に麻痺があったので、電動車いすでヘルパーの支援を受けてひとりで生活されていました。判断力には問題なく、しっかりしていたのですが、お体が不自由なので、銀行に行ったり、諸々の手続きをすることが難しく、支援が必要ということで、任意後見契約と同時に任意代理契約を結んでお手伝いさせていただいていました。

 元々乳がんの手術をして、その後も抗がん剤治療を続けていましたが、昨年秋頃から薬の効果が感じられなくなり、その割には吐き気や下痢といった副作用がひどい状態になって体への負担が大きくなったため、抗がん剤治療はやめて様子をみることになりました。
 ご本人は最後までできるだけ自宅で過ごしたいという強い希望をお持ちで、それについては主治医も理解していて、ケアマネージャー中心に訪問医、訪問看護師、ヘルパー等関係者みんなでご本人の希望に添うように支援していました。

 今年の春頃になると手足にむくみが出てきて、痛みの訴えもあったので、主治医の勧めで緩和ケアに移ることになりました。私の中では、緩和ケア病棟に入ると、最期までずっと入院しているイメージがあったのですが、そんなことはなくて、辛い時に入院して点滴等の処置を受け、落ち着いたら自宅に戻ることができるということで、ご本人も一度入院して鎮痛薬の点滴を受け、医師の許可をもらって1週間自宅に戻ることができました。

 この方はご主人に先立たれてお子さんはいません。万一の場合の相続人はお兄様1人ということでした。ただ、そのお兄様が既に認知症で施設に入っているとのこと。そうなると、このままご本人が亡くなった場合は、お兄様がすべて相続することになりますが、お兄様自身が手続きできない状態だと、お兄様に成年後見人を就けないと…ということになってしまいます。それはお兄様のご家族にとっても大変なことです。
 そこで、ご本人に遺言書を作ることを提案しました。お兄様には娘さん(ご本人にとっては姪)が2人います。姪御さんたちもご本人のことは気にかけてくださっていたので、その姪御さんに財産を遺してはどうかとお話しして、ご本人もそうしたいということだったので、急いで公正証書で遺言書を作成することにしました。

 遺言書は作成者の意思を書面に遺すものですから、何よりご本人が自分の意思をはっきり表明して、公証人がそれを確認できて初めて作成することができます。
 ご本人は緩和ケア病棟に入院中で、日に日に状態も悪化していく中、このままご自分の意思を表明できなくなったら遺言書は作れない。どうしよう!と焦りが募りましたが、できる限り急いで戸籍等の必要書類を集めに走り、忙しい公証人の先生にもなるべく早く作成していただくよう無理をお願いしました。もちろんご本人は公証役場に出向けないので、公証人に病室まで来ていただき、私ともう一人、亡くなったご主人の保佐人をしていた社会福祉士が証人となり、ご本人の希望で、緩和ケアの医師も立会う中、無事に遺言公正証書を作成することができました。

 それから間もなく、ご本人は痛みや咳をとる薬によって話をすることができなくなり、遺言書作成から2週間後に病院でお亡くなりになりました。

 その後遺言執行者として相続手続きをして、無事に諸々の手続きが終了したところです。相続人である姪御さんたちにも「遺言書があって良かった」と言っていただけました。

 結果として今回は本当にギリギリのところで遺言書を作成することができました。本当はもっと早くにご本人に状況を説明して作成しておけばよかったと、そこは反省点ですが、間に合って良かったとホッとした例でした。 

 ただ、この遺言書については後日談があるのですが、それはまた次に…。