「ハウジングファースト」−稲葉剛氏の講演−

2018年6月3日(日)

 先日、ねりま社会福祉士会の定期総会が開催されました。総会後の記念講演には、稲葉剛氏をお招きして『ハウジングファーストが福祉を変える』というテーマでお話をしていただきました。

 稲葉氏は1994年から新宿を中心に路上生活者の支援活動に取り組み、湯浅誠氏と共に自立生活サポートセンター・もやいを設立。2014年まで理事長を務め、幅広い生活困窮者の支援活動を展開してこられました。現在は一般社団法人つくろい東京ファンドの代表理事として、都内の他の6団体と共に「ハウジングファースト東京プロジェクト」を進めていらっしゃいます。稲葉氏の今までの実践と「ハウジングファースト」の考え方、実際どのような支援を行っているのか等についてお話を伺いました。

 「ハウジングファースト」とは、住まいを失った生活困窮者の支援において「安定した住まいの確保」を最優先とする考え方です。路上生活を続けている人の中には精神疾患や依存症を抱えたり、対人関係に苦手意識を持つ人も多いのですが、そのような人達に、これまでの支援は、住まいを提供するにしても、まずは施設や寮といった集団生活の中で治療を受けさせ、就労支援を受けて、社会に出る準備ができて初めてアパートでの独り暮らしができるというステップアップ方式が主流でした。このような支援では、集団生活になじめなかったり、人間関係でのストレス等によって途中でドロップアウトして路上に戻ってしまう人が多かったようです。
 1990年代に比べると路上生活者の生活保護申請は進んだそうですが、福祉事務所が民間宿泊所への入所を事実上強要するケースも多く、貧困ビジネスの存在も問題になっています。また、生活保護を利用することに対する心理的な壁も大きく、路上と施設を行ったり来たりする人が少なくありません。

 これまでのステップアップ方式の支援に対して「ハウジングファースト」は、『本人のニーズに応じて、安定した住まいの確保と支援を提供する』というシンプルな考え方です。治療や就労支援を受けること、施設や寮での集団生活を条件にしないで、本人が望めばプライバシーの守られる安全な住まいを得ることができるという、今までゴールだった住まいがスタートとなる、正反対のアプローチと言えます。そして、ハウジングファースト東京プロジェクトは「住まいは基本的人権である」を理念のひとつとして活動しているそうです。 

 今回の稲葉氏の講演で、初めて「ハウジングファースト」という考え方について知りましたが、確かに誰にとっても安全で安心できる空間(住まい)が保証されるというのは、生活するうえでとても大事なことだなとあらためて感じました。また、住まいが提供されるだけでなく、住まいと同時に本人に寄り添って相談に乗り、継続的にサポートしてくれる支援者の存在がとても重要で、そのような支援者がいるかどうかが、このプロジェクト成功のカギといってもいいように思いました。
 さらには、路上生活者に提供される住まいがどれだけ確保できるかも大きな問題だろうと思います。

 講演後の懇親会にも稲葉氏は参加してくださいましたが、その席で、「目の前の困っている人をどう支援するか、ということが一番大事だ」とお話しされていたのが印象的でした。困っている人、弱い人達を支援する実践の積み重ねによって、後から制度や法律が整備されるというのはよくあることです。制度の壁があるならそれを変えてしまえばいい、人にとって何が一番大事なのかを常に考えて、行動を起こせる人間になりたいなと思った講演会でした。