酒井行政書士事務所

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成年後見制度の研修(2)診断書の改定

平成30年7月20日(金)

 成年後見制度を利用して本人らしい生活を実現するためには、何よりも本人のニーズに合った後見人を選ぶことが重要であり、そのためには成年後見制度を担う地域連携ネットワークの中核機関と、後見人等を選ぶ家庭裁判所が本人に必要な後見人等のイメージを共有する必要があります。

 今のところ後見開始の申し立てがあった場合、申立書類のひとつである医師の診断書が主な判断材料になっていますが、現在使われている診断書の様式は本当に簡単なもので、しかも自分の財産を管理・処分できるかどうかということが判断基準になっています。この診断書で判断ができない場合はより詳しい鑑定をすることになっていますが、私の経験の中では、鑑定まで必要とされたケースは1件だけでしたし、周りでもあまり聞かないので、ほとんどは最初に提出する診断書で判断されているものと思います。

 本人について何も知らない裁判官が、あんな簡単な診断書で本人にふさわしい後見人等を選ぶのはとても無理です。だから、後見人候補者として書いてある人が、ほとんどの場合はそのまま成年後見人等として選任されることになります。

 このような選任のしかたでは、どうしても選任後に本人の希望する支援がされなかったり、本人の希望が考慮されなかったりという、いわゆるミスマッチが起こることも多いのではないでしょうか。

 そのようなミスマッチをなくすためにも、利用促進基本計画や意思決定支援の考え方をふまえて、診断書の改定に向けた検討が進められているそうです。
 医師・福祉関係団体、各当事者団体から意見を聞いて検討したとのことで、改定案のポイントは以下の通りです。

@    現在の財産管理ができるかどうかという質問ではなく、『支援を受けて契約等を理解・判断できるか』について四択で答えるように改定

A    判定の根拠を明らかにするために、見当識や意思疎通など4点について障害の有無等を記載する欄が新設された

B    福祉関係者が記入して、本人の生活状況等を医師に伝えるための「本人情報シート」の書式を新たに作成する

  記載内容が増えて、少しでも本人の状況が伝わりやすい書式になることはいいことです。また、私にとっては「本人情報シート」というものが作られるというのは、今回初めて知ったことです。介護や福祉関係者が記入することを想定してるようで、本人の日常・社会生活の状況や現在の金銭管理について、また今後の課題等についても書くようになっています。今の申立事情説明書を少し詳しくしたようなイメージでしょうか。

 このシートの提出は必須ではありませんが、医師が診断書を作成する際の参考にしたり、家庭裁判所が後見等の審判を下す際にも、より本人にとって適切な後見人等を選任するための資料にすることを想定しているそうです。そして、平成31年中に運用開始予定とのこと。

 2000年に新しい成年後見制度が始まって17年が過ぎました。利用促進計画にもあるように、何よりも本人を含めて利用する人がメリットを実感できる制度になるように、これからも関係者の意見を取り入れて柔軟な運用がされることを期待します。そして、私自身も利用する人に寄り添った支援ができるように、考え、行動したいと思いました。



成年後見制度の研修(1)地域連携と社会福祉士への期待

平成30年7月20日(金)

 先日、所属している社会福祉士の団体「ぱあとなあ東京」の研修で、最高裁判所事務総局家庭局の西岡様から『診断書の改定と本人情報シート 〜社会福祉士に期待すること〜』というタイトルで、大きく分けて下記の三つの内容でお話を伺いました。

(1)  成年後見制度を取り巻く状況

(2)  地域連携における社会福祉士への期待

(3)  診断書の改定

内容を記しているときりがないので、私が印象に残った部分を何点か書いてみたいと思います。

(2)については、平成29年3月に閣議決定された「成年後見制度利用促進基本計画」に話が及びました。利用する人がメリットを実感し、本人の生活をより豊かにするためには地域福祉との連携、各専門職同士の連携が必要であり、そのために地域連携ネットワークおよび権利擁護支援の中核機関を整備することが求められています。

 今までどちらかというと本人の財産管理(保全)に主眼が置かれていたように思われる成年後見制度ですが、本人がメリットを感じられる制度・運用にするために、本人の社会生活の質の向上という視点を大事にする支援が求められるようになってきたと言えそうです。

 そんな中で社会福祉士には、福祉の専門家として司法と福祉を結ぶ役割が求められるとともに、自身が後見人等として活動することはもちろん、親族が後見人等になった場合の相談窓口になることも期待しているとの話がありました。
 私自身、親族後見人に対する情報提供や相談支援はとても大事なことなのに、そういった体制が整っていないと感じているので、これからは地域連携を図る中で、親族後見人を支援する仕組みができることを期待するとともに、自分でもそのようなことに関わりたいと考えています。



「ハウジングファースト」−稲葉剛氏の講演−

2018年6月3日(日)

 先日、ねりま社会福祉士会の定期総会が開催されました。総会後の記念講演には、稲葉剛氏をお招きして『ハウジングファーストが福祉を変える』というテーマでお話をしていただきました。

 稲葉氏は1994年から新宿を中心に路上生活者の支援活動に取り組み、湯浅誠氏と共に自立生活サポートセンター・もやいを設立。2014年まで理事長を務め、幅広い生活困窮者の支援活動を展開してこられました。現在は一般社団法人つくろい東京ファンドの代表理事として、都内の他の6団体と共に「ハウジングファースト東京プロジェクト」を進めていらっしゃいます。稲葉氏の今までの実践と「ハウジングファースト」の考え方、実際どのような支援を行っているのか等についてお話を伺いました。

 「ハウジングファースト」とは、住まいを失った生活困窮者の支援において「安定した住まいの確保」を最優先とする考え方です。路上生活を続けている人の中には精神疾患や依存症を抱えたり、対人関係に苦手意識を持つ人も多いのですが、そのような人達に、これまでの支援は、住まいを提供するにしても、まずは施設や寮といった集団生活の中で治療を受けさせ、就労支援を受けて、社会に出る準備ができて初めてアパートでの独り暮らしができるというステップアップ方式が主流でした。このような支援では、集団生活になじめなかったり、人間関係でのストレス等によって途中でドロップアウトして路上に戻ってしまう人が多かったようです。
 1990年代に比べると路上生活者の生活保護申請は進んだそうですが、福祉事務所が民間宿泊所への入所を事実上強要するケースも多く、貧困ビジネスの存在も問題になっています。また、生活保護を利用することに対する心理的な壁も大きく、路上と施設を行ったり来たりする人が少なくありません。

 これまでのステップアップ方式の支援に対して「ハウジングファースト」は、『本人のニーズに応じて、安定した住まいの確保と支援を提供する』というシンプルな考え方です。治療や就労支援を受けること、施設や寮での集団生活を条件にしないで、本人が望めばプライバシーの守られる安全な住まいを得ることができるという、今までゴールだった住まいがスタートとなる、正反対のアプローチと言えます。そして、ハウジングファースト東京プロジェクトは「住まいは基本的人権である」を理念のひとつとして活動しているそうです。 

 今回の稲葉氏の講演で、初めて「ハウジングファースト」という考え方について知りましたが、確かに誰にとっても安全で安心できる空間(住まい)が保証されるというのは、生活するうえでとても大事なことだなとあらためて感じました。また、住まいが提供されるだけでなく、住まいと同時に本人に寄り添って相談に乗り、継続的にサポートしてくれる支援者の存在がとても重要で、そのような支援者がいるかどうかが、このプロジェクト成功のカギといってもいいように思いました。
 さらには、路上生活者に提供される住まいがどれだけ確保できるかも大きな問題だろうと思います。

 講演後の懇親会にも稲葉氏は参加してくださいましたが、その席で、「目の前の困っている人をどう支援するか、ということが一番大事だ」とお話しされていたのが印象的でした。困っている人、弱い人達を支援する実践の積み重ねによって、後から制度や法律が整備されるというのはよくあることです。制度の壁があるならそれを変えてしまえばいい、人にとって何が一番大事なのかを常に考えて、行動を起こせる人間になりたいなと思った講演会でした。



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